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無名の中学生からカンヌのレッドカーペットへ
柳楽優弥さんの俳優としてのスタートは、まさに「奇跡」ともいえるドラマチックなものでした。彼は、芸能事務所に所属して間もない無名の中学生でしたが、2002年に是枝裕和監督が進めていた映画『誰も知らない』の主役オーディションに応募します。
この作品は、実際に起こった児童置き去り事件をモチーフにしたもので、主演には「演技経験がなく、素人に近い少年」を求めていたといいます。オーディションには500人以上が応募した中、柳楽さんの目に宿る「強さと儚さ」を見た是枝監督が彼を即決。
これが、彼にとっての俳優デビュー作となったのです。2004年、映画『誰も知らない』で主演を務めた柳楽さんは、わずか14歳にして第57回カンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。これは日本人初であり、史上最年少の快挙として世界中に衝撃を与えました。
是枝裕和監督との出会いが人生を変えた
是枝裕和監督との出会いは、柳楽さんの人生にとって大きな転機となりました。オーディション時点では、演技経験はまったくなかった柳楽さんですが、是枝監督は「演技を教えるのではなく、引き出す」というスタンスで彼と向き合いました。
撮影は非常にリアルで、脚本も細かくは決まっていない場面が多く、柳楽さん自身の自然な反応や感情がそのまま映画に映し出されています。だからこそ、彼の演技には「演技を超えたリアリティ」が宿り、観客の心に深く突き刺さるものとなったのです。
この作品を通して、柳楽さんはただの新人俳優から、世界が注目する「天才少年俳優」へと一躍躍り出ました。
早すぎた成功がもたらした苦悩と葛藤
カンヌでの華々しい受賞から一転、柳楽優弥さんは思春期という不安定な時期を迎え、俳優としてのキャリアに深く悩むことになります。10代半ばで世界的な評価を受けた彼にとって、周囲の期待やプレッシャーは計り知れないものでした。
その後の数年間、柳楽さんはなかなか次の代表作に恵まれず、自身の進むべき道に迷いを抱えた時期もあったといいます。インタビューでも、「自分が俳優としてこれから何をしたいのかが分からなくなった」と語っており、一時は芸能界引退まで考えたこともあったそうです。
さらに、精神的なストレスから体調を崩し、芸能活動を一時休止した時期もありました。世間が「カンヌの天才少年」として賞賛する一方で、彼の中では「自分は本当に演技ができているのか」という自問自答が続いていたのです。
再起をかけた努力と成長、そして再評価へ
柳楽優弥さんは、そんな苦悩の時期を経て、自分自身と真剣に向き合う決意をします。芸能活動を再開してからは、オーディションを地道に受け直し、さまざまな役柄に挑戦。映画『許されざる者』『ディストラクション・ベイビーズ』などでの迫真の演技が話題となり、再び評価を集めるようになります。
特に2016年の『ディストラクション・ベイビーズ』では暴力的で破壊的な青年という難役を見事に演じ、映画ファンや評論家の間で「柳楽優弥、完全復活」と称されました。
また、2017年のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』では徳川家康役を演じ、歴史ある作品にふさわしい重厚な存在感を示しました。こうした一つひとつの積み重ねが、彼に再び注目と評価をもたらしたのです。
これからの柳楽優弥さんに期待されるもの
現在の柳楽優弥さんは、天才俳優という称号にとどまらず、「深みのある実力派俳優」として確固たる地位を築いています。映画やドラマだけでなく、舞台やCM、ナレーションにも活躍の幅を広げており、各方面からのオファーが絶えません。
本人もインタビューで「今はようやく俳優という仕事が好きになってきた」と語っており、心身ともに安定した状態で仕事に向き合っているようです。あの頃の少年が、時間をかけて一人の俳優として成長した姿は、多くの人に勇気を与えてくれます。
これからの柳楽さんが、どんな作品でどのような姿を見せてくれるのか、ファンのみならず日本映画界全体が注目しています。